いじめ後遺症とは?大人の克服法と子供への対策法を専門家が提案

いじめ後遺症とは
いじめ後遺症とは、子どもの頃にいじめを受けたことにより、自尊心(ありのままの自分を受け入れ大切にできる心)が傷ついたままだったり、トラウマとなっていたり、何年も経ってからある出来事がきっかけでフラッシュバックが起きたりして、人間関係や仕事などの日常生活に影響が出てしまう状態のこと。
精神科医の滝沢龍博士が中心となった研究によると、いじめを受けた人は対人恐怖症や摂食障害、不安障害、パニック障害、引きこもり、自殺願望、うつ病などの精神疾患の発症リスクが高いとされています。
身体的な症状としては、体がだるい、頭痛がする、眠れない、起きられないなどの「うつ症状」や、強いストレスを抱えていることが要因の過敏症腸症候群などが起こる可能性も。
いじめ後遺症による不安や緊張から体がこわばることで、身体的な不調をきたすことがあり得るのです。
いじめ後遺症が生活に与える影響
いじめ被害者は、加害者に怒りを向けるよりも、何か起きるごとに自分に矢を向ける癖がついています。
また、以下のような自己評価をしているのも特徴です。
- 人が怖い、信じられない
- 自分の考え、容姿などに自信がない
- 「どうせ私なんて」「自分はダメな人間だ」などと自己否定をする
- 「すべて私が悪いんだ」などと自責の念に支配されている
- 自分の思いや気持ちを大切にできる「自己肯定感」が低い
このようなネガティブな自己評価をしていると、他者からも同等の評価を受けることになり、上司や同僚との関係も上手くいかないという悪い状況を作ります。
その結果、社会との繫がりが益々怖くなり、うつや引きこもりなど自立困難な状態に陥るケースも珍しくありません。
逆に努力してコミュニケーションを取れるようになったとしても、家に帰ると疲れ果ててしまっていて、何をやっても楽しくないと感じるのであれば、実は本人が気づいていないだけで、心の奥は恐れでいっぱいなのです。
その努力や頑張りが何かのきっかけで崩れると、一気にうつ状態に繋がる可能性があります。
他者がいじめ加害者であったのに、いつからか自分自身が加害者となって自らを傷つけ、何年もいじめ被害者であった人の人生を支配し続けるのです。
現代の「いじめ」について
携帯、スマホを持つ子どもが増え、LINEなどで特定の個人について悪口や嘘を書かれる「ネットいじめ」が生まれ、現代のいじめは陰湿で残酷、かつ巧妙になっています。
いじめは集団心理が働くことで加害者意識が希薄になり、自分の考えや行動などを深く省みることなく無意識のうちに加担してしまいます。
また、リーダー格の子や多数派に同調しなければ自分がターゲットになってしまうので、加害者側に必死で居続けようとして、なかなかいじめられている子を助けられません。
ガキ大将や乱暴な子どもがいじめっ子で、おとなしくて弱い子どもがいじめられっ子、そして正義の味方が守ってくれるというのは今やおとぎ話のようなもの。
現代では、いじめる側の「加害者」と、いじめられる側の「被害者」という構図です。
大人社会から生まれる負の連鎖
大人社会でもパワハラ、セクハラ、モラハラなど様々な「ハラスメント」が問題になっています。
職場やママ友、夫婦関係で起こっていることが間接的に、時には直接的に子ども達へ影響を及ぼすことがあります。
競争社会の中で構築された「権威者や多数派が正しい」という意識から、「立場の弱いものや少数派」がターゲットとなってしまう事態が生まれるのが現実。
このような環境で生じたストレスが家庭内に持ち込まれ、父親の鬱憤(うっぷん)が母親へ、その母親の鬱憤は子どもへ。
そして、その子どもは兄弟や学校内での弱いものや動物、対象がない場合は自分自身へと連鎖していきます。
子ども達の世界は、大人社会の縮図です。
いじめ後遺症を防ぐためにも、私たち大人の一人ひとりが意識を変え、自分のストレスを他者へ向けないようにマネジメントすることも必要です。
いじめが脳に与える影響
私たちの脳は、さまざまな外的刺激によって神経伝達物質やホルモンなどをコントロールします。
その結果、攻撃的になったり、落ち込んだり、イライラしたり、不安が起こります。
脳は解剖学的に大きく3つに分けられ、一番古い原始的な脳幹は生命に関わる部分で、生きるための基本的な働きをしています。
その上にかぶさる大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)は記憶や情動をコントロールし、更に上にある大脳新皮質は意欲を起こさせ、言語や学習能力などを司っています。
大脳新皮質にある前頭前野は、大脳辺緑系からの情動をコントロール。
いじめなどで暴言虐待を受け続けると、この前頭前野の容積が減少するため、感情のコントロールや考える力、コミュニケーションに支障をきたします。
また、うつ病やパニック障害が起こるなど、人の大脳前辺縁系にある扁桃体(へんとうたい)も変化しています。
原因としては、神経伝達物質のドーパミン(喜び、快感)とセロトニン(安らぎ)のバランスが崩れるからだと言われています。
このようにさまざまな研究によって、いじめによる刺激やその後遺症により、脳が変化したり傷ついたりすることが明らかになってきました。
しかし、適切な治療やストレスの原因を取り除いてゆくことで、脳は元に戻るという研究結果も出ています。
いじめ後遺症を残さないために周囲ができること
子どもは、自分がいじめられていることを隠そうとします。
なぜなら、いじめを受けている自分は惨めな存在であり、それを親や周りに知らせることは、「恥ずかしい」「ガッカリさせてしまう」「心配をかけてしまう」「怒られる」などの気持ちが働くからです。
そんな思いから平静を装い、元気にみせてしまうのです。
私も小学校高学年の時、仲良くしていたグループから突然無視され、とても辛い時期がありましたが、両親や先生などの他者には、決して無視されていることを言えませんでした。
いじめの期間が長くなれば心は疲弊し、内側に籠って自分を責め、否定していくようになります。
これが更にストレスとなり、自律神経やホルモンの影響を受け、さまざまな体の不調を引き起こすこともあるので、子どもが登校時刻に体調を崩すようであれば、何らかのサインかもしれません。
現代の忙しい親は、子どもが日常すべきことへの指示や確認ばかりになりがちです。
普段から子どもがいつでも何でも話せる安心感(否定のない場)を与え、話しを聴く姿勢を持ち、表情などに注意しましょう。
また、以下のようなことを日常的に伝えておくのも良いでしょう。
- いじめは、いじめる側が悪く、いじめられる子のせいではないんだよ
- 何かあって辛い時は、あなたが話せるタイミングで話してね
- どんなあなたであっても、あなたは大切な存在なんだよ
- 何があってもお父さん、お母さんが必ずあなたを守るからね
いじめられている子に言ってはいけないNGワード
いじめられていることがわかった時やその子が勇気を出して話してきた時に、出鼻をくじくような否定や疑い、また叱咤激励など、下記のような言葉は子どもを追い詰めるだけですので絶対に避けましょう。
- あなたが先に何かしたんじゃないの?
- あなたにも悪いところがあったんじゃないの?
- 考え過ぎじゃない?
- 勘違いじゃない?
- 謝ってみたら?
- 本当はどうなの?
- 言い返せば(やり返せば)いいでしょ
- 気のせいよ
- 頑張りなさい
- もう少し(それくらい)我慢しなさい
- お母さんが子どものときは…
- そんなことくらいで…
いじめ後遺症を乗り越えるには
家族の協力や理解がとても重要です。心を回復させるには、体の病気と同様に十分な休息が必要なのです。
家族がいじめ後遺症で苦しんでいるのであれば、学校や職場に行けないなど、できないことを決して責めたりせずに、安心できる居場所を作ってあげてください。
もし自分自身が後遺症に苦しめられているのであれば、
やる気がでない、朝起きられない、原因不明の体調不良がある時は、休みましょう。
また「被害者であること」をしっかり理解して、普段から頭の中で自分にどんな言葉を投げかけているかに意識を向け、自分の声に気づく練習をしてみてください。
具体的には、以下のようなステップで自分に声をかけてあげると良いでしょう。
≪ステップ1≫
「私ってダメだな」「どうせ私なんか」「私のせいだ」など、ネガティブな言葉に気づいたら、「これは今までの癖だね。嫌だったよね。ごめんね。」と言ってあげましょう。
≪ステップ2≫
「本当はなんて言いたかった?どうして欲しかった?」「本当はどうしたいの?どう感じているの?」などの質問に向き合ってみましょう。
≪ステップ3≫
気持ちや感情が出てきたら、「ムカつく!」「大きな声で怖いんだよ!」とちょっと乱暴な言葉でも、思うがままに紙に書き出してみた後などに、「そうだよね、そう思っていいよ」と自分に声をかけてあげましょう。
苦痛を覚えるような症状がある場合は、早めにカウンセリングやセラピー、心療内科に行くなど、適切な治療や克服法を専門家に提示してもらいましょう。
傷ついた心を抱えるあなたへ
今から10年ほど前、いじめがテーマのドラマを観ていた時、「これはいくらなんでも誇張なんじゃない?」と子ども達に聞くと、「普通にあるよ」と言われて、とても衝撃を受けたことを覚えています。
その後、カウンセラー、セラピストとして活動していく中で、30代や40代の大人が抱えるあらゆる人間関係や仕事に関する悩みは、過去のいじめや親からの暴言、虐待が原因となっていることが多いと実感するようになりました。
私が多くのセラピーを行ってきて感じるのは、いじめ加害者も、元はいじめ被害者であるということ。
上述したように、大人社会の縮図として影響を受け、傷ついた心があるのです。
そして、多くの大人の心も傷ついたままです。弱いものを攻撃しないためにも、自分自身をしっかり癒すことがとても大切です。
心理療法(セラピー)では、過去を再体験し、無意識に抑えこんでしまった感情を解放して、内なる子ども(インナーチャイルド)を癒すことで、過去の捉え方が変わります。
それにより現在起きている症状が軽減され、自己受容、自己肯定を促し、前向きに生きていくことができるようになります。
薬が必要な場合もありますが、傷ついた心の治療はできません。
カウンセリングやセラピーをひとつの選択肢として受けていただくことをおすすめします。
まとめ
いじめにあった人は、自分は被害者だったと認識を持ちましょう。
どうしても自己否定や自分責めがやめられず後遺症で辛い場合は、適切な治療、療法により脳も心も回復します。
独りで抱え込まず専門家に相談してください。
記事を書いた人

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