学術博士が解説!葉酸の取りすぎが招く母体と胎児への副作用

葉酸の摂り過ぎには注意が必要?過剰摂取ラインを越えないために、厚生労働省が発表している摂取量の上限値を公開します!欠乏症による赤ちゃんへのリスクや病気の事例も紹介。
葉酸
源伸介 (みなもと しんすけ)
東大阪大学短期大学部教授

葉酸は赤ちゃんの発育のために欠かせない栄養素なので、妊活中から積極的に摂取しようと考えている女性は少なくありません。
ところがその一方で、葉酸の取りすぎによる赤ちゃんへの影響を心配する声もあります。

そんな時、妊婦が目安とする葉酸の必要摂取量と、取りすぎとなる過剰摂取量を知っておけば安心です。
それに加えて、葉酸を取りすぎた場合と不足した場合のリスクを前もって知っておく事で、自然と量を守ろうという意識が働くというもの。

ただでさえ不安の大きい妊娠初期を少しでも安心して過ごす為にも、まずは情報を仕入れて正しい知識を蓄えることが大切です。

そこで、栄養学の専門家として葉酸に精通されている源教授に、葉酸の過剰摂取についての詳細を伺いました。

葉酸を取りすぎたらどうなるの?

妊娠後期の過剰摂取で赤ちゃんが喘息になるリスク

様々な議論がされていて、確実にリスクが増えるとは言い切れませんが、妊娠後期に過剰摂取をしていた場合は3~5歳になって喘息になっている子供が一定数確認され、過剰摂取との関連性(リスク)があるという研究が発表されています。

葉酸過敏症

葉酸は不足しがちな栄養素ではありますが、摂取の上限量があり、たくさん取り過ぎるとおきる症状があります。

摂れば摂るほど健康になる、赤ちゃんの障害リスクを減らせるというものではないので注意が必要です。

葉酸過敏症の症状

  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 不眠症
  • じんましん
  • かゆみ
  • 発熱
  • むくみ
  • 呼吸障害

他にも、葉酸を過剰摂取していることで亜鉛の吸収が妨げられるという現象も起こります。

特に妊婦の場合、亜鉛は胎児の骨などの成長に大切な栄養素となるため、葉酸を摂りすぎないように注意する必要があります。

葉酸を取りすぎていないはずなのにこれらの症状が現れた場合は、サプリに含まれている葉酸以外の成分によって、アレルギー反応が起こっている可能性もあります。

成分をチェックして別の製品に変えるなどの対応が必要かもしれません。

ビタミンB12欠乏症の発見が遅れる

葉酸とビタミンB12は共に赤血球を作る上で欠かせない大切な栄養素です。

どちらかが不足している状態だと巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)という貧血になります。

ただし、葉酸とビタミンB12のどちらが不足しているのかで巨赤芽球性貧血の症状が異なります。
ビタミンB12が不足している状態(ビタミンB12欠乏症)の場合にのみしびれなどの神経症状が現れます。

葉酸が不足している場合、神経症状は現れません。
ビタミンB12は不足、葉酸は過剰に摂取していたという場合は貧血症状が現れず、しびれなどの症状だけがでているということになります。

その場合は巨赤芽球性貧血であることに気がつきにくくなってしまい、適切な治療が遅れた事で神経症状が悪化してしまう危険性があります。

ビタミンB12欠乏症の症状

  • 立ちくらみ
  • イライラ
  • 手足のしびれ
  • 睡眠障害
  • 消化器官障害
  • 腰痛
  • 歩行困難
  • 記憶喪失
  • 認知障害

過剰摂取ラインはどこ?

サプリメントの画像葉酸は、細胞の生産や再生を助け、身体の発育を促す重要な働きを持つビタミンBの一種です。
水溶性なので、基本的には必要量以上は尿になって体外に排出されます。

なので、多少の摂り過ぎで葉酸過剰摂取になることは殆どありません。

ただし、サプリメントなど必要量が一錠のところを何十錠も飲むなどの摂取方法を何日も続けた場合、肝臓に障害が出たという報告が海外にはあります。

このケースのように、サプリを摂り過ぎてしまいやすい理由は、大量に飲むことのできる形状であることです。

日本では厚生労働省の基準で葉酸摂取量の上限が決められているので、その耐容上限量を守れば人体に悪影響を及ぼす心配はありません。

≪葉酸摂取耐容上限量(μg)/日≫ ※男女共通
1~2歳200
3~5歳300
6~7歳400
8~9歳500
10~11歳700
12~29歳900
30~69歳1000
70歳以上900

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妊婦が1日に必要な葉酸量

妊婦が1日に摂取するべき葉酸の摂取推奨量は、妊娠していない場合の必要量の約2倍に当たる480μgとされています。

妊娠初期は、受胎直後から胎児が激しい細胞分裂を繰り返し、脳や脊髄といった重要な器官の約8割が作られる大切な期間。
この細胞分裂を行うDNA合成に必要とされる栄養素が葉酸です。

そのため、厚生労働省では「妊娠する一ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの初期はしっかりと葉酸を摂取するのが望ましい」としているのです。

特に妊娠の初期は、摂取目安量を意識して過ごしましょう。

葉酸を摂りすぎないようにするには

食べ物からは取りすぎる心配なし

一日240μgという推奨量が定められていますが、食べ物からの葉酸の吸収率は高くなく、水溶性ビタミンなので取りすぎても汗や尿で体外へ排出されるという特徴があります。

過剰摂取になることは考えにくいため、心配はありません。

サプリは1日の推奨量を守る

サプリで摂取している場合は、食べ物に比べ吸収率が高いので上限量に注意が必要です。
サプリメントに記載されている1日の推奨量を飲むようにしましょう。

過剰摂取を防ぐために毎日決まった時間に摂取するのがおすすめです。

普段は朝に摂取しているけれど、ある日は朝飲むのを忘れたので夜に摂取、次の日は朝に摂取とした場合は、夜から朝で日付が変わっているものの、間隔が短く過剰摂取となってしまう可能性があるため要注意です。

飲み忘れた時はサプリでの摂取は控える、間隔をあけて飲むという工夫が必要です。

葉酸入りの加工食品に注意

葉酸クッキーや葉酸ヨーグルト、葉酸牛乳、葉酸グミといった商品があり、日常に葉酸を取り入れやすくしているものが数多く発売されています。
葉酸強化食品に含まれる葉酸はサプリメントと同じ性質で吸収率が高くなっています。
これらの商品をサプリと併用して摂取している場合は、飲食の量によっては過剰摂取となる恐れもあります。

どの程度の葉酸量が含まれているのか改めてチェックし、サプリを摂取している時は飲食しすぎないようにしましょう。

さらに、妊婦の場合は糖分や塩分、乳製品の過剰摂取でも悪影響があるため、葉酸を摂取したいからといってこれらの商品を取り過ぎるのはよくありません。

葉酸が必要な時期はサプリに置きかえて、菓子類はおやつとして少量を食べるという程度にしましょう。

葉酸欠乏症によるリスク

葉酸は赤ちゃんの正常な発育を助ける栄養素なので、欠乏が招くリスクは大問題です。
特に胎児の時期に不足すると、細胞が正常に作られずに神経管閉鎖不全(しんけいかんへいさふぜん)などの病気になるリスクが高くなります。

神経管閉鎖不全とは、頭側で起こると無脳症(むのうしょう)、尾側で起こると脊髄披裂(せきずいひれつ)となり、二分脊椎の病気の中でも非常に重い病状です。

このふたつの病気に先天性水頭症(せんてんせいすいとうしょう)をプラスしたものが、脳・脊髄の三大奇形とされています。
神経管癒合不全予防率
また、7ヶ国33施設での共同調査の結果、女性が葉酸を積極的に摂取すると、神経管癒合不全の発生に72%もの予防効果があると証明されました。

さらに、ノルウェイの研究では子供が口蓋口唇裂(こうがいこうしんれつ)になるリスクが40%低下するという結果に。

オランダのグループの研究では、先天性心疾患になるリスクが葉酸に関連していない先天異常と比べて20%、中隔の障害を伴う先天性心疾患では約40%低下することが明らかになっています。

このような各国の結果を見ても、葉酸不足が生まれてくる子どもに大きな影響を及ぼすことがわかります。

逆を言うと、妊娠する可能性のある女性が葉酸の欠乏を解消することが子どもの障害発症リスク低減に効果的であるといえます。

専門用語の解説

巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)
赤芽球(赤血球が出来る前の未熟な細胞)の肥大化によって、正常な赤血球が造られずに起こる貧血のこと。
葉酸やビタミン12の不足による細胞分裂の異常が、巨赤芽球を作る原因です。

水溶性ビタミン
水に溶けやすいビタミン類のこと。
水で洗ったり、たっぷりの水で長時間煮込むなどの加熱処理を施したりすると成分が失われやすいのが特徴。

DNA合成
DNA(骨格や髪質など、身体の特徴を遺伝によって支配する物質)が正しく複製や分裂を繰り返す事によって、細胞核が増殖していくこと。

神経管閉鎖不全
神経管閉鎖障害とも呼ばれ、脳や脊髄の中枢神経の元となる神経管が上手く形成されない事が原因で起こる機能障害のこと。

無脳症
先天性奇形の一つで、生まれながらに脳の大半が無い状態、あるいは脳が小さな塊に萎縮している状態であること。
無能症の胎児のうち75%は死産となり、無事に産まれたとしても一週間以内の生存率はわずかです。

脊髄披裂
二分脊椎症と呼ばれ、生まれながらに背骨から脊髄が剥き出しになっている状態であること。

開放性二分脊椎症の場合、本来は神経管の中にあるはずの脊髄が体外に飛び出てしまっているため、外部との接触で損傷して神経障害が起こり、歩行、排尿・排便が困難となります。

潜在性二分脊椎症の場合、皮膚に覆われているため乳幼児期は無症状な場合が多いですが、腰周辺の肉や骨との癒着があるため、成長期になると引き伸ばされて運動障害や排尿に困難をきたすといった症状が現れます。

先天性水頭症
先天性障害の一つで、胎児期に頭蓋内に髄液が過剰に溜まる水頭症を発症すること。
頭位が拡大し、成長するにつれて発達障害や行動異常などが明らかとなるケースが多いです。

神経管癒合不全(しんけいかんゆごうふぜん)
脳や脊髄に通っている神経管が正常に繋がっていない状態のこと。

口蓋口唇裂(こうがいこうしんれつ)
先天異常の一つで、生まれつき上唇や上顎が割れた状態であること。
ミルクや母乳を上手く飲めない、発音障害などの症状があり、ヘルニアや心臓の形態異常を合併する場合もあります。

乳児期の形成外科手術に始まり、成人するまでに言語治療、歯の矯正治療など、長期間に渡って様々なケアが必要です。

先天性心疾患
生まれつき、心臓に何かしらの異常がある病気のこと。
症状は様々で、その種類ごとに診断名が付けられます。

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記事を書いた人

東大阪大学短期大学部教授
源伸介 (みなもと しんすけ)
東大阪大学短期大学部教授 源伸介(みなもと しんすけ) 栄養学の観点から『葉酸』の認知向上や摂取推奨活動を行い、『葉酸たまご』など食品の生理機能の研究・開発実績のある学術博士。
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